夕張メロン

 「深夜でも開けてあげるよ、夜の10時でこれだけ貰えるんだったら、深夜だと西瓜くらいはかたいな」と、お礼のトマトをもらいながら照れ隠しに言った。  風呂にまさに入ろうとしているときに電話がかかった。ご主人の脈が5つくらい打ったら飛んで、しんどいと言っているらしい。不整脈の薬を作ってと言うことだった。ご主人もよく知っている人だから、不整脈の誘因はおよそ想像がついた。尋ねてみると図星だった。となれば漢方薬で十分対処できるから、3日分の不整脈漢方薬と起死回生の漢方薬を1回分作って、取りに来た奥さんにことづけた。  翌朝、その後どうなっただろうなと思いながらシャッターを開けた。明けて30分もしないうちに奥さんがビニール袋片手に入ってきた。夜遅く開けてもらったお礼をまず言われ、30分後ぐらいには、脈が30打って1回飛ぶくらいに回復して、寝る前には脈は飛ばなくなっていたと経過も教えてくれた。「3日分作ってもらったんだからお父さん真面目に飲まれっ」て言って出てきたらしい。 実はビニール袋は外から透けて見えていたから、全部トマトだと思っていたが、女性が帰ってから開けてみるとトマトの下に、立派な茹でたエビが詰められたトレイがあった。話しているときはそれには気がつかなかった。僕がエビを好きなことを知っているのか、少し味が濃いめに茹でられていた。深夜なら西瓜と言ったが、西瓜ではバランスがとれない。今度来たら「深夜なら夕張メロン」と訂正しようと思っている。  こんなエピソードは都会に住んでいる人にとっては理解しづらいかもしれない。まずどうして不整脈でしんどくて、夫婦で恐怖感を味わっているのに、救急車やかかりつけ医ではなくて僕なんかに連絡してくるのか。時間外に薬局を開けてもらったが、料金を払っているのに何故余分にお礼をするのか。実は僕にも良く分からないのだ。前者の行為で鍛えられ、後者の行為で謙遜を教えられたのは確かだが、それでは僕がチャングンソクに似ているという証明にはならない。 福山通運でも軍足でもかまわないが問題は夕張メロンだ。