竹槍

 何処でどう間違ったのか、台風がどんどん西に進んで明朝には牛窓の真上を通りそうだ。寧ろこの台風の一つ前のものを警戒していたのに、その台風は急に衰えて中国大陸の方に行ってしまった。ノーマークだったものがいつの間にか発達して、それもはるか東の大東京を伺う台風かと思っていたら、はるか西の田舎を通過したいらしい。 幼稚園の先生も台風の進路に気をもんでいた。明日にずれ込むことになったから休園などの措置はとらなくてすむらしいが、先生方は園や市役所に詰めるのだそうだ。僕は休園や休校になれば先生方も家に帰って、子供と同じ「儲けた」感にひたるのかと思ったら、どうやらそうは問屋が降ろしてくれないらしい。前回かなり接近した台風の時は、夜、園の先生方も市役所の支所に詰めて、ヘルメットをかぶり椅子に腰掛け台風の危険が無くなるまで待機していたらしいのだ。人が足りないのか市長のパフォーマンスか分からないが、彼女らが雨もあたらない部屋で待機していても何の力にもならないだろう。飛んでくる飛行機に竹槍で向かっていた時代があったらしいがその光景を僕は想像した。  どうせ役に立てないのなら、家に帰って我が家を守りたいだろうに。消防団員のように何らかの訓練と覚悟を持っている人ならいざ知らず、子供の相手をするのとでは勝手が違う。恐らく本人達も不本意なのだろうが、誰に何処に訴えていいのか分からないのだろう。それとも何か不自然さを抱えたままなすがままを決めつけているのだろうか。  日本を覆い隠してしまいそうなあの巨大な雲の渦には誰も勝てない。岸壁につながれた漁船のように息をひそめて通り過ぎるのを待つしかない。小石1個分のヘルメットが何となく滑稽だった。