風貌

 土曜日のお昼ごはん、だいたい2時前後に食べることが多い。台所にあるテレビを見ながら食べるが、どのチャンネルも興味が持てるものがない。そこで消極的な選択で行きつくのが、再放送かもしれないが教育テレビの「心の時代?」とか何とかいう番組だ。心のまではあっているがそのあとは自信がない。
 主に宗教家が出てくる番組だが、今日はなぜか写真家が出ていた。毎回対談形式で話が進んでいくのだが、今日はさすがに写真家と言うことで、多くの写真も登場した。どうやら、社会派の写真家らしくて、もう80歳くらいな方だと思う。戦争の記憶を風化させないために、南方まで出かけ、原発事故を風化させないために福島を訪ね、カメラに収めている。
 僕が3チャンネルに変えてすぐ思ったのは、なぜ今日は宗教家同士の対談でないのだろうと言うことだった。ところが対談は意外にも濃密に展開していった。いつも見る内容に劣らず多くの珠玉の言葉があふれる。僕は引き寄せられるように聴き入った。写真家だから見入るのが本来だろうが、この方は言葉でも魅了できる人だった。
 自身も癌やうつ病を経験して克服しているから、視点が滅び行く人たちと共有できている。だから、そこからあふれる体験的な言葉が余計吸引力を持つ。一芸に秀でた人は、溶岩のように溢れ出る力を持っているのだと思う。それが専門分野でなくとも。
 番組を見始めた時と、見終えた時に、同じ人間なのにまるで別人のように風貌が変わっていた。見かけをはるかに超越するものを秘めているから人間は素晴らしい。誰もが輝ける力を頂いているにちがいない。