寮として貸し出している古民家の裏には、3段の段々畑が広がっていて山に連なる。以前はセイタカアワダチソウが生い茂っていて、何年も猪の格好の隠れ家になっていた。ところが半年くらい前に持ち主らしき方がきれいに刈ってくれた。現れたのは昔懐かしい段々畑で、2か所の法面も現れ、郷愁をそそられた。
 除草剤で草を生えないようにしてくれたおかげで、いつもその光景を楽しむことができる。以前の迷惑が今では心地よさに変わった。もしあそこがきれいな花で埋め尽くされたらどんなにきれいだろうと思ってしまう。その思いを抱いていたらふと、お願いして譲ってもらえばよいのではと頭に浮かんだ。
 ところがれっきとした農地だから、お百姓でない僕にはそもそも権利がないみたいだ。僕の部落でもほとんどそこしか畑は残っていないのに、そしてどう見ても何十年も耕作されていないのに、法律上、僕が手にできるのはかなり難しいみたいだ。市役所に問い合わせてみたら、ほとんど不可能に近く、申請の出費がもったいないようなことまで言われた。
 3方を住宅に囲まれ、あぜ道程度の進入路しかないのに、農地として買い手を待つか、持ち主不明で荒れ果てるか。そのどちらしか想像できないが、農地を守ると言う国の法律が僕の些細な希望に立ちはだかる。もっと大規模に農地を破壊しているのに、庶民には厳しい。まあ、どうしても欲しいと言うことはなく、綺麗を楽しみたかっただけだからほかの方法を考えるが、農地を買うことは出来ないと言う噂(事実)を実体験した。