程度

 3月4日に紹介した患者さん。まだ寒い今日、峠を越えてバイクで一人でやって来た。同じ町でも15分くらいかかる。ご主人の車で連れてきてもらわないと不安だったのがさっそうと一人でやって来た。一目見て調子がよいのがわかる。あれから電話もないから調子がよいのだろうと想像していたが、つい1か月前の怯えて喋りが止まらないような様子もない。僕の言うことがほとんど耳に入らなくて、言葉のやり取りができなかったが、今日は普通に会話が成立した。
 家で何もすることがなく閉じこもって不安におびえていたのが、外出してみようと思えたらしい。せっかく訪ねてきてくれたのだから、それももう病人らしくは見えないから、何か世のため人のためにしたらと助言すると、今はもう若くないからできないと言いながら、以前は峠を歩いて毎日、牛窓に来ていて、道中ビニール袋とトングを持ち歩き、投げ捨てられたごみを拾い集めていたと教えてくれた。そして興味深い、話をしてくれた。
 決して珍しいことではないと言うのにまず驚いたが、捨てられているもののなかに紙おむつがあったらしい。もちろん新しいおむつを捨てるわけがないから、使われたものだ。中にはうんちが入っているものもあり、何日か後に拾われたものだからウジ虫が湧いているものもあったらしい。その道は海水浴場に通じる道で、夏はもちろん海水浴客、それ以外の季節でも海のレジャーを楽しむ人が良く利用する。このごみの捨て方こそ、現代を、現代人を象徴している。日本人のモラルも今は所詮この程度なのだ。
 「人が笑うかもしれないけれど、また砂浜のごみ拾いでもしようかな」心を患うほど善良な田舎の人をゴミ拾いにしないで。