光景

 やむにやまれぬ用事で今日仕事中に出かけた。出かけたのが午前11時半。帰って来たのが午後2時半。平日のその時間帯に僕が家を出ることはまずないから、僕にとっては貴重な光景や珍しい光景に出会った。都市部で働いている人にとっては当たり前すぎて問題にならないだろうが、僕にとっては縁遠い光景だ。
 用事があったのは岡山駅近くだったのだが、道中で二つの光景が僕にとっては新鮮だった。
岡山市に入ってすぐの所に、息子が勤めている診療所がある。結構広い駐車場だが、車でほとんどが埋まっていた。確か7時過ぎには出かけて行くから、昼前でもあれだけの患者さんがいたら大変だろうと思う。酒をよく飲み、休日にはキャンプを楽しみ、僕としたらもう少し漢方薬を勉強してほしいと思うことが多かったが、あの車の多さを見たらそんなことは言えないなと思った。酒も自然も息子にとっては必要なものなのだろう。
 そこを5分ほど行くと、僕のところにもう10年以上通ってきてくれる女性が店長をしているコンビニがある。まるで天職かと思わせる女性が、店長に最近抜擢されたのだが、そこもまたとても広い駐車場なのに車があふれているようだった。通りすがりだから確かめることは出来なかったが、20台くらい駐車していたように思う。実力の発揮ぶりを見ることができてうれしかった。
 さて道中はこの二つで、次は駅の近くで目にした光景。「テレビで見る通りじゃ」
岡山市の中心部に近づくにつれて、やたらスーツ姿の男性が目に付きだした。12時を過ぎたころだからオフィスから出て食事に行く人たちだろう。我が家で昼ご飯を食べ続けて40年。1日中薬局に籠っているから、その時間帯の外部の世界を見たことがなかったので、それも都市部のは目に触れることはなかったので、テレビニュースなどで目にする光景を再現しているようだった。駅近くでは、若い女性がお揃いのユニフォームを着て、道行く人に大きな声で「ワンコインのテイクアウト弁当あります」と叫んでいた。確かそこは、良く流行っている居酒屋だと思う。コロナの影響をもろ受けている業種なのだろう。
 またある店の前に長い行列ができていた。食べ物屋さんだとはわかるのだが、看板にはカタカナと英語で店名らしき名前が書かれていたが、僕は何のお店か分からなかった。食べ物屋さんと想像したのは、店の外に出てきたエプロン姿の店員さんが客の人たちに名前を尋ねていたからだ。整理券代わりなのだろう。結局何の店かも分からなかったが、そんなに高級感もないお店が流行っているのに興味が沸いた。
 多くの人が、いや無数の人たちが、それぞれの人生を重ねあいながら暮らしているんだと、感慨深い早春の光景だった。