ちばける

 「ちばけとらなあ」「ほんとじゃ、確かに、ちばけとる」  この会話が分かれば、岡山県認定試験の一級をもらえそうだ。僕自身も久々に口にした。幼い時にはしばしば口から出していただろうが、さすがに成人してからは出すチャンスがなかった。岡山弁か牛窓弁か分からないから、岡山の高校に行った時にも使わなかったし、まして大学以降は使った覚えはない。ただ買い物に来た漁師が使ったから、おうむ返しのように僕も繰り返した。  彼が軽トラで買い物に来たときには先客の車が店頭の駐車場にあり、それがなんと横付けにされていた。店内に入ってから先客をまじまじと見、その人が出て行ってから、冒頭の言葉を吐いた。名前をあげればこの町の人なら誰でも判るからここでは上げれないが、ある職業の人だ。かなり勉強をしなければなれる職業ではない。そんな人が他人への迷惑を想像することなく、よりによって駐車場を占拠するような止め方をしたのだから面白いわけがない。この光景を見なければ彼もかつてのようにその老人を尊敬していたのかもしれないが、化けの皮ははげたようだ。だからこの辺りでは軽蔑の意味がこめられている「ちばける(ふざける、図に乗る)」と言う言葉を使ったのだ。  勉強とはまるで縁がない生活を送ってきている彼が、勉強だけで地位をつかんだような人を、一刀両断で否定する。僕は長年色々な人と接してきて、地域で生きるのに必要なものの筆頭に肩書きなどは取るに足らないものだと痛感している。いい仲間がいて、対等に付き合い、時にまじめに、時に脱線して助け合いながら暮らす術の方がよほど大切だと思っている。