紙一重

 正月早々葬式を出すところだった。息子が嫁に「話してもいい?」と伺いを立ててから教えてくれたから冷静に受け止められたが。
 珍しくと言うか、初めてと言うか、子供たちが巣立ってから初めて家族全員が正月に集まった。同じ町内に住んでいるのに、正月だからと言う理由で集まったことはない。それよりも各々の予定の方が楽しいだろうし意味もあるだろうから、あえて声をかけることもしなかった。
 今年はさすがにコロナの影響で予定が全員貧弱だ。そこでお墓を掃除してそのあと昼食を一緒にした。その時、徐に息子が切り出したのだ。
 昨日雑煮を県北の宿泊先で食べたらしいのだが、食卓の正面で食べていた嫁の様子が急におかしくなったことに気が付いたらしい。すぐに餅を詰まらせたことを察して、背後からみぞおちを圧迫して吐き出させたらしいが、その瞬間「さすがにやばいと思った」らしい。しかし職業柄吐き出させる方法を知っていたから、最悪の結末は防げたが、もし息子がそこにいなかったら、おそらく今日は通夜だろう。「授業で習っていたから知っていたけれど、実際にやったのは初めて」と今日だから笑って言えるが、生死が紙一重の元旦だったわけだ。
 「日本のお餅は柔らかい」と初めて食べた餅の柔らかさに驚いていたが、そういえば外国のはほとんど団子に近い。大きなものをほおばったのだろう。教えておくべきだった。
 実は娘には気を付けるように数日前に言っていたのだが、嫁には言ってなかった。常識から言えば気を付けなければならないのは僕が筆頭なのだが、僕はかなり小さくして食べるようにしている。一番の理由は虫歯の詰め物がよく取れるからだが、命を落としたというニュースも目にすることが多いから神経質にもなっている。歳とともにお餅がおいしくなったが、窒息死の苦しさを想像すれば我慢も簡単だ。サイコロ大くらいに妻がはさみで切ってくれるが、「特老(特別養護老人ホーム)じゃねえよ!」