精一杯

 母が90才になるのを祝って、今日、兄弟姉妹5人が集まってホテルグランビア岡山で食事をした。冠婚葬祭以外で全員が集ったのは恐らく初めてだと思う。大正生まれの両親はとにかくよく働いて、正月も休まず、それこそ365日薬局を営んでいた。そう言った環境で育ったから、僕ら子供達は家族一緒に行動した経験もなく、親の後ろ姿を見て育った。育てられたのではなく、育ったという表現が適している。5人がそれぞれ違う高校に進学し、その後も全員が家を出た。記憶に乏しい幼い頃だけ一緒に遊んでいただけなのだ。 決して仲が悪いわけではないが、テレビに出てくる愛情溢れる家庭ではなかったように思う。家庭より職業を優先しなければならなかった時代だったのだろう。おかげでどの兄弟姉妹も自立は早かったように思う。中学を出たらそれぞれの道だったのだから。この職業優先はどうやら僕も受け継いでしまったらしく、僕の子供達に楽しくてほのぼのとした家庭を与えることは出来なかったみたいだ。どうやら我が家を反面教師にしているように思える。それはそれでいいことだと思っている。僕の世代で、仕事だけのような家庭は終わらせた方がいい。笑いが溢れ、楽しい会話が行き交う方が値打ちがある。寝るまで仕事の人生がこれからの人達に価値があるとは思えない。両親の時代のように食うに困った時代の価値観は最早通用しない。  ロビーを見下ろしながら兄が「この中にいたら世の中不況って感じがしないな」と言った。なるほど、一見して旅行客や結婚式の客と分かるような人で溢れていた。2時間かけて一つづつ運ばれる豪華そうな料理を味わうより、これだけかければラーメンを何倍食べれるだろうと計算するような風貌の人は見かけなかった。祝うことも、祝われることも苦手な家庭の、初めてで精一杯の祝いの会だった。