常識

 ある雑誌に過敏性腸症候群について、某大学の教授と助手の方が最近の知見を載せてくれていた。病態や治療方法を詳しく書いてくれているが、結論は「・・・従って治癒がないことも患者に説明し漫然とした薬物投与は避けるべきだと考える」と結んであった。ここで言う薬物治療とは恐らくほとんどの患者さんが投与された経験を持つ代表的な薬を指しているが(抗コリン薬・・チアトン、消化管運動改善薬・・セレキノン、高分子重合体・・コロネル抗うつ薬抗不安薬セロトニンアンタゴニスト)どれもカバーできる範囲があまりにも狭すぎて、継続するとデメリットが多いという理由からだ。 病院でおこなわれている最新治療が良く分かりとても参考になった。しかし、果たして治癒がないと患者さんが最初から聞いて治療するモチベーションが保たれるのだろうか。僕の未熟な漢方薬で治って頂いた200人あまりの人達はいったい何だったのかと素朴な疑問が湧くが、所詮田舎の薬剤師だから口を挟む資格はない。多くの言葉をやりとりして、本質に迫る泥臭い作業を繰り返して完治にいたるしかない。この泥臭い作業と、僕の泥臭い処方で救われる人が出るのだから、あながち治療成績も教科書通りに理解する必要はないのではないかと思う。僕の経験から何故って思われるような処方でお世話しているが、立派な先生方でも手こずるトラブルなのだから、中には変わった視点で変わった処方があっても良い。いや、むしろ常識にとらわれない方がいいのかも知れない。治癒はないという常識があるのなら、治癒できるという僕の常識を一人ずつ積み重ねるしかない。そのうち、治るんだという常識がぽつぽつと芽生えてくれたら嬉しい。