無気力

「朝晩涼しくなり過ごしやすくなってきましたが、疲れているわけではないですが、無気力というか、だるいというか、なんだかやる気のでない毎日です。」
 本人には悪いが薬の注文メールの冒頭部分を読んだだけで思わず噴き出した。なんとなく様子が目に浮かびそうな文章だ。もうどのくらい漢方薬を送っているのだろうか、名前だけで症状や住んでいるところがすぐ出てくる。メールだけで想像は膨らむ。顔かたちや容姿、しゃべり方や心根なども勝手に肉付けられて、僕の中に一人の女性像が出来上がる。
 最近横浜に住む姉がズームと言うものを覚えたらしくて僕にも勧めてくる。苦手と忙しさでためらっていると資料も送ってきてくれた。添えられた言葉の中で一つなるほどと思ったのは、薬局でもズームで患者さんと話をして処方を決めるようになるのではないかと言う、姉の推論だ。テレビ電話とどこが違うのか分からないが、その可能性は高いと思う。そうなるとさすがの僕でも操作方法を覚えようとするだろうが、今の僕は正直腰が重い。使えるようになるための設定がまずもってハードルが高いうえに、文章や話し方から一人の人物像を作り上げる喜びがなくなるのは寂しいのだ。知らなくても良いことまで僕は知りたいとは思わないのだ。もちろん逆も真なりで、誰も僕の顔や表情など見たくもないだろう。治るものも治らなくなる。