本心

 顔を確認したら言おうと思っていたギャグを使えなかった。送りの調剤をクロネコヤマトの集荷に間に合わせようと懸命に調剤室で調剤ていた時間帯だから、せっかく岡山市から漢方薬を取りに来てくれたのに会えなかった。妻が応対後に「朝、お願いされてた方が漢方薬を取りに来られたから、渡しといたよ」と教えてくれた。少しだけ残念だった。20年の歳月がどのくらい人を変えるのか、老いさせるのかを見たかったから。自分の顔はほとんど毎日見ているから、老け具合はなかなか気が付かないものだが。ところが他人だと、20年の変化を客観的に見ることができる。恐ろしいような現実を示されるだろうが、興味はある。
 朝の電話で、20年前に病院でも治らないような病気を治してくれて、ここ最近20年ぶりにそれが発症したと言うのだ。そして僕のことを思い出したから、その薬を作ってもらいたいと言うのだ。もちろんカルテなど残ってはいない。ただなぜか僕はその人の病気を覚えていたから作ってあげることは出来る。
 20年後にまた同じ病気になるのも珍しいが、その方が僕を覚えていてくれたのがうれしい。20年後の再開は出来なかったし、せっかく考えていたギャグも使えなかった。「お互い、生きていてよかったなあ」ギャグと言うより本心に近いかも。