半径

 本来なら今頃は和気の藤祭りに行き、藤棚の下で和太鼓のコンサートを楽しんでいるころだ。また連休中には丸亀の城まつりに行き、天守閣を見上げながら、初夏の日差しを浴びて和太鼓の演奏を聴くころだ。日々、無感動に過ごしていたが、昨日ニュースで藤がきれいに咲いているのを見てから「そういえば」と一気にかつての一連の行動が思い出された。そうしてみれば、日常の楽しみが既にいくつも失われていた。
 聞くところによると、スェーデンではほとんどの日常は制限を受けていないらしい。50人以上の集会は規制を受けているらしいが、老人を保護している以外は、自由に日常生活を送っている。もちろんマスクなどしない。その理由は、集団免疫をもってコロナと対峙しようとしているからだ。他国から見れば一か八かのように見えるが、国民がそれを支持しているところがすごい。よほど科学的な知性を持ち合わせているのか、自然の摂理を受け入れているかなのだろう。僕は漢方薬を長年使ってきたからその理屈には大いに親近感を持つ。しょせん風邪の一種、来年には新型でなく普通の風邪と呼ばれるようなものに、どうして世界中の政治屋があのように大げさにふるまうのだろうと思ってしまう。何を意図してあのような英雄を気取っているのだろうと思う。メルケルも最初は集団免疫に言及したが、すぐにひっこめた。何を恐れて主張を曲げたのだろう。
 今日、漢方問屋の専務さんに頼んで、インターネットで中古のラケットを買ってもらった。連休中に当分無人のテニスコートに侵入して、生まれて初めてテニスをするというベトナム人たちと、テニスもどきを楽しみたいと思ったのだ。いや生まれて初めての経験をしてもらえることを楽しみたいと思ったのだ。僕が年甲斐もなく楽しんだりしたら救急車ものだろう。
 続々と返金される和太鼓やベートーベンのコンサートのチケットが釣り道具やラケットに代わる。半径500メートルの休日。