懸念

 ああ、だから犬って、あげたり、もらったりできるんだと思った。まったくの部外者なのだが心に痞えていたものが取れた。
 1か月以上前にもらわれていった娘たちの子犬の一匹が、今日新しい飼い主に連れられてやってきた。そんなことをしたら里心がついてこれから困るのではないかとすぐに心配モードに入ったのだが、すぐにそれは素人の単なる危惧だと思い知らされた。
 飼い主さんが「連れてきました」と一人で入って来た。駐車場に友人と一緒に待っていると言っていた。僕は薬局の中から娘との再会のシーンを見ていたのだが、想像に反して、犬は娘の顔を見ようともしないで、どちらかと言うと飼い主の後ろに隠れるそぶりだった。最初は戸惑っているのだろうと思ったが、終始、他人行儀のままだった。
 犬は3日かわれたら恩を忘れないとか、犬は「今」しかないなどと聞いたことがあるが、その両方を地で行っているかのようだった。里心がついて再び飼い主さんと帰っていくのがつらいのではとの最大の懸念は吹き飛んだ。そしてそれと同時にわだかまりも吹き飛んだ。
 知識がないものにとっては、大きな発見と大きな安心のつかの間の光景だった。