様変わり

 僕が生まれて育ったのは、戦前戦後の牛窓町の中心部で、今はその道路の狭さなども手伝って、住民の多くが出て行っている。昔から住んでいる人たちは今は老人になり、朽ちた住居に住んでいる。
 車一台がやっと通れるような道だから、僕も訪ねることはない。その地域を囲むように広い道が通ったから、もっぱらその道を利用している。「昔ながらの風情を楽しむことができる通り」で売り出そうとしたこともあるが、昔ながら栄えた通りならいいが、昔ながら朽ちた通りでは観光客は呼べない。山が背後に迫り、猫の額ほどの平地があり、堤防をはさんで深い海。瀬戸内の漁港にはよくある風景だが、密集した家々で窒息しそうになる。
 ところが、ところがだ。距離で言うと2kmしか離れていないその辺りを正月に10数年ぶりに訪ねて驚いた。まさに様変わりで、朽ちた家々が密集していたはずなのに、それらを取り壊して広場が沢山出来ていて見通しが随分とよくなった。その上、町外からの移住者が新しくてモダンな家を建てていて、海辺の風景をグレードアップさせている。中には芸術家達のアトリエも点在し、独特の雰囲気をかもし出している。春にはその通りを利用して芸術家達の作品展が行われていたが、ここなら作品も映えるだろうと思った。一度も見に行ったことはなかったが次回は必ず見てみようと思った。
 夕焼け百景の瀬戸の夕焼けが見える頃、とんびが数羽低空を旋回した。幼い時にまさにその場所で僕は空を見上げとんびを目で追っていた。60年の歳月が次第に色を失っていく。