栗林公園

 これはうかつだった。これだけのものを今まで見ないでいたとは。
 唯一の目的は、宇野高松間の直行フェリーの最終日に乗ることだったから、帰りの便まで数時間を高松でどう過ごすかはそんなに問題ではなかった。ただ、せっかくの高松だから、そして来日2ヶ月のベトナム人を連れてのことだから、少しは有意義に過ごさなければもったいないかと言う、消極的な選択で栗林公園行きとなった。
 従来なら正門を入って右側方向に進むのだが、そこで偶然北回りコースと言うような案内板が目に止まった。そして逆向きの矢印には南回りコースと書かれていた。そうかそれなら今日は時間をつぶすところがここしかないのだから、南回りコースも回ってみようと、いつもの北回りの後そちらの方に歩いていった。山を借景にして作られたのは素人の僕でも分かるが、なんと滝があった。大きいとはいえないが、滝自体が珍しい日本では結構見ごたえがあった。まさかこんなところにとにわかには信じられない光景だったが、人工のようには見えないからやはり自然のものなのだろう。あたり一面、岩肌がむき出しの中の滝も結構綺麗だった。いつの頃を模して作られたのかわからないが、小さな茶室があり、侍が、こうして茶を楽しんだ時代もあったのだろうと想像を掻き立てられた。そしてその奥へ進むと石橋がアーチ上にかかった池や、日本庭園の中にたたずむ平屋の建物などが連続して目を楽しませてくれた。ただ、日本人とベトナム人、その上年齢差がかなりあることも影響しているのか、わびさびを一応理解できる僕と、色彩鮮やかな花を探し続ける彼女達とでは興味の対象が全く違い、感動を分かち合えたとは言いがたかった。
 ただ、僕としては自分のうかつさを身につまされた。その日は新たな発見でとどめ、今度はもっと時間を取り、もっとゆっくりと木々の中に身を潜めてみようと思った。それが出来ての栗林公園だと思う。