落葉

 マムシ注意といのしし注意の看板がやたら目に付くから、この数年四国村に行くのは控えていた。特に夏は茂みや竹藪の傍を歩かなければならないから選択肢からは完全に除外している。
 ところが紅葉情報にひかれて昨日今日連続して訪ねてみると、さすがにこの季節はいいものだった。危険がないのは最低限の条件で、ゆっくり落ち着いて回れるから、紅葉だけでなく、移設された江戸時代の日本の古民家なども楽しめた。いつものように写真とりまくりのベトナム人は日本人の数倍の時間をかけて回るから、そのおかげも手伝ってゆっくりと自然の中に身をおけた。
 彼女達は僕と行く小旅行をとても楽しみにしてくれている。会社旅行で分刻みで連れまわされる旅行には国民性だろうか付いていけないみたいで、会社命令がなければ棄権したいくらいらしい。僕は忍耐強く彼女達の動きに合わせるから、重宝がられるのだろう。ただ忍耐強く待つことで、僕も持って生まれた時計の速過ぎる針のスピードを半ば強引に遅くできて、交感神経の過度な亢進を少しは防げる。結構自分で意識してできることではないから僕の健康にも貢献してくれている。ここでも僕は、何かをしてあげるよりも多くを頂いているのだ。
 この歳になって紅葉をめでることが可能になった。これもベトナム人たちのおかげだ。来日する前から「サクラ」と「モミジ」の期待は大きくて、晩秋の年中行事になりつつある。僕自身の年齢がちょうど紅葉の見頃時期と重なっているのか。ただ、紅葉情報を毎日のように確認しているが、そろそろ県北のほうは「落葉」の文字が並び始めた。まさに僕にうってつけの言葉が次に待っている。