一人旅

 なかなか人気の観光地に行くのはリスキーなものだ。僕一人ならどうでもいいが、ベトナム人の思い出作りの旅行となると問題だ。
 このところ宮島に行くたびに人が増えている。原爆ドームはまだまだ白人が多いが、宮島は結構アジア人が多い。もう国籍が分からなくなるほどいろいろだ。図々しい中国人、やたら体格の良い韓国人、耳慣れた言葉を話すベトナム人までは分かるが、そのほかが最近入ってきていると思う。原爆ドームは幾分かでも理性がないと訪ねる気にはならないだろうから、アジアの人は急激には増えていない。ところが宮島は観光オンリーだけだから、多国籍の観光客でごった返している。
 昨日はそのあおりで二つの目玉を失いかけた。ひとつは敗者復活で何とかなったが、海に立つ大鳥居が修理中でりベールで隠されていたから、半分の価値しかなかった。
 と言うのは、船を下りて最初に向かう厳島神社が近づいたあたりで行列ができていた。僕は旗を持っている人に従う例の一団かと思ったのだが、それこそ白人達も多く混じっていたので、入場チケット(失礼だが正式名称を知らない)を買うために並んでいる人たちだと分かった。僕は即断でもみじ谷の方に向かった。紅葉はまだだが、緑のもみじ谷も好きだし、そこからロープーエイで山頂を目指すのも楽しい。自撮りしまくりのベトナム人にはうってつけだ。ところがこれまたロープーエイの建物が近づくと、長蛇の列ができていた。これも即決で今来た道を引き返した。結局帰り道で、厳島神社の列が短くなっていたので入ったのだが、海に浮かぶ鳥居の姿が見えないから、ベトナム人たちは落胆の色を隠さなかった。
 そういえば真夏、真冬と結構気候が厳しいときに訪ねることが多かったから、今まで何かを断念したことはなかった。秋の気候が良いときに有名観光地を訪ねると、このように「行っただけ」と言う徒労に終わる可能性があることを身をもって知った。恐らく、恐らくだが、一番いいのは一人旅だろう。ひょっとしたら人生そのものも。