神戸牛

 スマートフォンを持っていないからその実力を知ることはできないが、日本語がほとんどできないベトナム人でも、それがあれば1000円で神戸牛が食べ放題の店があることを探すことができるらしい。神戸に行く2日前に突然その店に行くことを希望されたから、僕はインターネットで調べた。もちろん見つけることはできたが、どうも胡散臭い。僕はブランド牛などというものにまったくこだわらないからその価値を知らないが、その店の近隣のレストランで肉料理の相場を調べたら、安い店で3000円、上は1万円まであった。それが食べ放題で1000円となると、僕はとても口に入れることはできない。食料品の買い物もほとんどしたことがないからわからないが、普通の肉でも1000円くらいなら量は知れているのではないか。僕でも食べられそうだ。それこそ若者だったら底なしだから、採算が取れるはずがないだろう。僕はその店に行くのにすこぶる抵抗があった。何の肉なんだってところだ。
 案の定というか、僕ももう何回も神戸行きを付き合っているから想定したとおり、元町の買い物で時間をかなりとった。僕は通りをはさんだところでひたすら待った。その忍耐のおかげで、その焼肉の店に到着できるのが午後の3時過ぎになった。となるとその後の麻耶山からの神戸の夜景を眺めるという最大の目的に支障が出る。そこで、一応三宮で降りるには降りたが、そのまま新神戸まで行くことにした。彼女たちも納得してくれて新神戸で、あるレストランに入り2800円のステーキを食べた。僕は見ただけで胃がもたれそうだったので、海鮮ものにしたが、彼女たちはそのおいしさを堪能したみたいで、何度も僕のほうを見て「神戸おいしい」「神戸おいしい」と繰り返していた。時間ぎりぎりでやっとステーキハウスを見つけた僕の努力を買ってほしいが、分かってはいないだろう。日本中地元みたいな感じで僕を見ているから。何はともあれ、その親切だったお店の方に感謝だ。神戸牛より、おいしく安くオーストラリア産の肉を焼いてくれたのだから。