吉野家

 朝食直前になっても食欲がない。胃の中に昨夜食べたものがそのまま残っているような感覚だ。食事を抜こうかどうか迷っている間に、朝食が用意されたから仕方なく食べた。食べながらどうしてこんな不快な感覚があるのだろうと考えてみて、原因らしきものを見つけた。
 先々週、夜暇な時間があったので、妻が毎週利用している生協のカタログ販売を眺めていた。普段我が家では食べない美味しそうなもののオンパレードだったから、おいしそうなのを軒並みチェックした。その中に昨夜食べた憧れの「吉野家の牛すき」があったのだ。
 岡山駅前にその店舗があり、入り口から多くの方が食事中の光景が目に焼き付いていて、一度食べてみたいなあと思いながら、入って行く勇気がなくて食べたことがない。テレビなどでも値段が上がった下がったとしばしば報道されるが、実際に食べたことはない。あれだけ多くの方が肩を並べ美味しそうに食べているのだからどれだけ美味しいのだろうと、想像だけは膨らんでいた。
 それが生協のカタログで注文するだけで食べられるのだから期待マックス。妻がおもむろに袋をから取り出して、五穀米にかけてくれたが、いい香りがする。これがかの有名な吉野家の「牛すじか!」と一気に口に運んだが、糸こんにゃくのように縮れた肉に脂が多すぎて、一口二口で胃にもたれそうだった。汁は美味しかったが、肉には閉口。
 期待に裏切られてからの会話は、すべて商品名が「牛すじ」になっていた。もちろん皮肉ではなく、自然にそれに代わっていた。牛すじで有名なのだと勝手に理解して「もう僕らの年齢では堪えるなあ!」と非は全部当方にあった。
 ところが今朝その袋を捨てる時に気が付いた。「牛すき」だと。あこがれが失望に変わる瞬間。何に例えるべきか?いっぱいありすぎてじゃ~

 

 

台湾企業の言いなりになる悲しい日本 古賀茂明
 半導体受託生産の世界最大手・台湾の「TSMC」が、熊本県に新工場を建設する。世界最大の半導体メーカーである同社は、半導体微細化競争でもトップで、5ナノメートル(ナノは10億分の1)級で先行。さらに3ナノ級の開発も進む。政府は、世界最先端企業の工場誘致と胸を張った。
 しかし、「世界最先端企業の工場」と言っても、「世界最先端の工場」ではないことをマスコミは大きく報じない。新工場で生産するのは回路線幅20ナノ級だが、これは約10年前の古い技術だ。
 振り返れば、経済産業省の日の丸主義を掲げた時代遅れの産業政策は大失敗を続けた。その結果、1988年に世界半導体販売の過半を占めていた日本は、今や10%を切るところまで落ちた。トップ10社中日本企業が6社の時代もあったが、今は1社もない。技術面でも、台湾、韓国、米国企業との最先端競争に参加さえできない体たらくだ。
 そんな日本にTSMCは冷たかったのだが、経産省の猛アプローチの結果、誘致に漕ぎつけた。岸田総理が喜ぶのもわかる気はするが、内実を知ると、そうも言っていられない。日本側は工場建設の総事業費8000億円のうち4000億円もの破格の補助金を出すという。本来は、金額は抑える一方、少なくとも1000億単位の出資にするべきだった。そうすれば、大株主として経営に関与し、日本への優先供給を担保できる。だが、TSMCの方が圧倒的に強い立場に立ち、日本は大金をタダで取られる。なぜそうなったのだろう。
 実は、世界一のTSMCのすぐ後を追う企業が韓国のサムスン電子だ。米国は両社を競わせる作戦を採った結果、サムスン電子が米国に2兆円もかけて「最先端」工場を建設すると発表するに至った。米国の作戦が功を奏し、サムスンに最先端技術を持ち込ませることに成功したのだ。
 一方の日本は、安倍政権以来の嫌韓政策により、経産省が対韓輸出規制強化でサムスン向けの日本からの部品材料輸出を妨害した。サムスンに頼める関係ではない。その結果、TSMC1社頼みとなり足元を見られた。今後も同社側から無理難題を吹っ掛けられ、そのたびに押し切られることになるだろう。
 もう一つ、日本に最先端工場を作っても、実はそれを使える最先端企業はほとんどないというのが悲しい現状だ。TSMCから見れば、「日本に最先端工場?何のために?」ということになる。「3級品半導体でも十分な自動車メーカーのために、10年前の技術の新工場を作るしかないけど、儲からないよね」と、ごねているうちに日本から破格の貢物が献上されたというところだろう。
 つまり、本来はTSMC誘致の前に日本の電気や自動車産業のレベルアップ政策が先行すべきだったが、経産官僚にはそうした俯瞰的な視野はない。焦った挙げ句、TSMC誘致だけが目的化し、EVやグリーン産業などの成長分野では、自分たちの利権維持のために、いまだに世界に遅れる政策を採り続けている。
 歪んだ嫌韓政策によるTSMC一辺倒政策と国内先端産業復活の総合的プランを欠いたままの半導体復活プラン。その行く末は、大体想像がつく。「世界最先端企業が日本を選んだ!」と無邪気に喜んでいる場合ではないのだ。

 

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