裏通り

 一度は行ってみたい街だが、二度と行きたくない街で有名な倉敷に行ってきた。牛窓からだと1時間くらいで行けるから、二度と行きたくない街でも数十回は行っているだろう。来日したかの国の女性をそれこそ一度は連れて行くのだけれど、毎度御馴染みのコースで僕にはほとんど義務の世界だ。
 ところが今日は日程の都合でいつもより多くの時間倉敷に留まっていなければならなかった。そこで今までなら足を伸ばしたことがない裏通りを歩いてみた。すると古民家を利用した店が、歯抜け状態にならずに連なっていた。むしろ水路に面したメイン通りより趣があった。僕はそうした店で買い物をするタイプでもないし、日常で欲しいものは何もないので買い物はしない。連れて行ったかの国の女性達も、まだ来日して間もないから財布の中身も心細いだろうし、どう見てもいい客にはなれない。そんな中で全く趣を異にした店があったので吸い込まれるように入っていった。と言うのはほとんどの店が倉敷の特産のジーンズの生地を使ったかばんなどを売っているのだが、そこはガラス製品が一杯並んでいた。ランプみたいな大きなものから、装飾品まで、今記憶をたどればじゅうたんや座布団なども売っていた。
 中東のものだと言うのはなんとなく分かった。すると髭を蓄えた男性が出てきて親しげに話し始めた。こちらも初めての人と話をするのは慣れているから、すぐに打ち解けた。こちらが質問すると、どう見えますかと流暢な日本語で逆質問をする。恐らく日本人の見た目とのギャップが面白いのだろう。案の定、彼がトルコ人だと言うのも分からなかったし、年齢が20歳代だということも分からなかった。アフガン、イラク、イラン、イエメン、バングラディッシュの順に上げていったのだが、何故かトルコは頭に浮かばなかった。恐らく今の大統領が憲法を改正して権力を強めようとしているのが、日本のアホノミクスと重なって。気持ち悪くて自然に避けていたのだと思う。
 ところが彼は結構親切で、全員にトルコ式の紅茶を振舞ってくれた。遠心力を利用した盆を振り回しながら運んできて、それを実際に体験させてくれた。なんでも、あれだけの商品を店頭に飾っているのは日本では彼の店だけだと言っていた。25歳には絶対見えないが、自分で言うのだから信じるが、その若さでこれだけのものを揃える事が出来たお金の出どこが気になるが、観光資源としてはかなり貢献しているのではないかと思った。
 10時間の観光ガイドだったが、人工的なものでは倉敷には負けるが、結局は最後に見た牛窓のオリーブ園からの瀬戸内海の景色が一番彼女達に喜んでもらえた。