旅行記

 僕は漢方薬を3つの会社から仕入れている。1つは生薬の知識がすばらしい大阪の問屋さん。1つは漢方業界や薬局の情報が豊富な岡山県の問屋さん。そしてもう1つは台湾の漢方薬を扱っている大阪の企業。今日、その中の1つで最初に紹介した会社のセールスが月1回の定期訪問でやって来た。  用意された情報をまず教えてくれた後は、いつものように雑談になる。今回の雑談内容がとても興味深かったので、いやそこまで高尚ではなく単純に面白かったので披露する。庶民にも人それぞれの面白い経験があるものだと思った。  もう20年近く前になるが、チベットに仕事で行かされたらしい。「行かせてもらった」と言う表現をしたから、そのこと自体は彼にとっては有難かったのだろう。そもそもその雑談の入り口が、彼が持ってきた情報の中に久々に冬虫夏草と言う文字を見つけたからだ。一時ブームになったが久しぶりに目にした。彼はチベットにその冬虫夏草について調べにいったらしいのだ。もっとも冬虫夏草自体が非常に珍しいものだから、6人で10日間の日程だったらしいが、やっと1本だけ見つけることが出来たらしい。それで何をもって帰ったのかと興味があったので尋ねると、土を持って帰ったと言った。土に何かヒントがあると踏んだのだろう。  その前に大切な話を書くのを忘れた。到着して知ったそうだが、チベットは富士山の山頂くらい海抜があり、空気がうすく苦しかったそうだ。土地の人は白酒?と言ってアルコール分が60%くらいある酒を飲むらしい。寒いからそのくらいのものを飲まないとやっておれないのだろうが、当然そんなものを飲んでは働けない。彼らは働かないのだそうだ。「60%だったら、ほとんどメタノールじゃない」と僕が驚いて言うと「だから40歳くらいで死ぬらしいですよ」と言っていた。  ここで話を戻すが、帰国してから会社で出張の成果を社員の前で発表さされたらしい。僕はどんな成果を誇ったのか心配になったが、案の定上司から「お前のは旅行記だ」と言われたらしい。  今だ彼は首にならずに回ってくるから、関西の企業は人間と同じでノリがいいのだろう。そんな彼から仕入れているヤマト薬局が不安になった読者の方もおられると思うが、人間関係も化学薬品のように精密機械で測られるようでは息苦しいから漢方薬程度でよいと思っている。