贈り物

 さすが、備中温羅太鼓の実力は安定している。出来れば2時間あまり、備中温羅太鼓だけの演奏を聴いていたかったが、主催が総社市文化協会だからそうは言っておれない。市内で活躍する他の和太鼓グループも発表の機会を与えられて当然だ。  和太鼓ファンとしては、太鼓だけで十分なのだが、演者は新しい試みにも挑戦したいのだろう。昨年のダンスパフォーマンス・ズンチャチャとのコラボに加えて、今回はアクリル画家のパフォーマンスが2時間太鼓やダンスの舞台上で行われた。申し訳ないが僕はほとんど絵は見ていなかった。ただ、ダンスは、昨年より優れていたように思った。昨年は出来れば参加して欲しくなかったと思ったが、今年は備中温羅太鼓の演目をよく研究して創作した様に見えた。よく曲に合っていて、連れて行った7人のかの国の若い女性達もとても喜んでいた。和太鼓はもちろん、ダンスパフォーマンスも、かの国では絶対見れないものだ。都市部はともかく、田舎からやってきている女性達には、いったん帰国してしまえば、文化とは縁遠い日常に帰ってしまう。  7人のうち3人はこの23日に3年間の実習生としての勤めを終えて帰国する。今牛窓で17人働いているが、このところこの3人を優先的に色々なところに連れて行ったり、色々な経験をしてもらっている。二度と日本に来る事がないだろう3人に、日本の良い思い出を詰め込んでいる。日本が誇る「物」ではつまらないから、日本が誇る文化や人の情けなどをお土産にして欲しいと思っている。会社の指導もあって(実習生を守るためには必要)日本人と私的に接することが出来なくて、外国にいても小さな同胞の集団だけで過ごしてしまう弊害(物でしかこの国を判断できない)を何とか僕は克服したかった。  その努力?(僕自身も楽しいから努力とは言えないが)が一つだけ裏目に出ている。勤め上げ、自国では相当な額に上るお金を持って帰るのに、帰りたくないと言い出したのだ。意気揚々と喜色満面で帰って行ったころもあったが、最近は帰るのが辛そうになっている。数少ない日本人の友人としての我が家の人間や、会社でお世話になった人たちとの別れが辛いのと同時に、拝金主義がはびこりだしたかの国の人心の乱れをかなり危惧している。  3年ごとに数人が帰国し、またその補充として数人がやってくる。10年近く一期一会を繰り返しているが、自身の夢とか希望とかを持つことが困難になってきた僕には、異国の青年達の笑顔に勝る贈り物はない。