食い物

 ほとんど実益よりも小さな旅行の意味も含めて、県外の医者対象の漢方の勉強会にもしばしば出席する。医者の世界は見ていて歯がゆいことが多い。立派な人が多すぎるのか、なぜかよそよそしい。形式ばっている。僕がお世話させていただいている薬剤師だけの勉強会など、そもそも先生がとても砕けた方なので、教えてもらうほうもそれにつられて砕けてしまって、医者が見ると許せない光景かもしれない。ただ正直、その砕けた先生に教えていただくほうが、堅苦しい先生方に教えていただくより、数段、いや比べ物にならないくらい価値がある。  お医者さんの勉強会に出席していて、講師は毎回違うのだけれど、同じような嘆きを聞いた。それは漢方を標榜しているお医者さんの病院の前に開いている薬局が、煎じ薬を作りたがらなくて、粉薬に変えてくれと言わんばかりらしい。理由は簡単だ。薬価と言って国が定めた生薬の値段が、実際に問屋から購入する薬の値段より安くなったからだ。簡単に言えば以前同じ薬を作って貰えていた手数料が目減りしてきたってことだ。目減りしたといっても僕に言わせれば微々たるもので、目くじら立てるほどのものではない。今まで過分な報酬を頂いているのに、少しは世の中に還元しろといいたいくらいなレベルの話だ。  粉薬も粉薬で僕に言わせれば疑問がある。どうしてどんな患者が来ても同じ包装(g)のものを出すのだろう。薬を何グラム使えば効くかとどうして考えないのだろう。年寄りでも若者でも、男性でも女性でも、太っていてもやせていても、夏でも冬でも、いつもあの光り輝く包装のまま患者に手渡す。僕も息子に「どうして包装のまま出さないの?」と尋ねられたことがある。その答えは2ヵ月後、実際の患者さんが彼に教えてくれた。数年間皮膚病で皮膚科にかかっていた患者さんに、息子が漢方薬を出した。少しは良くなったがそこから改善しない。僕は処方は正しいと思ったから、6g出していたのを、6.1gにしてみたらと助言した。すると数日後から、停滞していた皮膚病が一気に動き出し、ケロイド状態まで改善して1ヶ月で劇的にきれいになった。「0.1gで違うんだ」と息子は驚いていた。こうした作業は薬剤師だから出来ることだ。輪ゴムで止めて、分かったような指導をして、コンビニ店員が数時間も働かなければ手に出来ないような報酬をわずか数分で得る職業の人間が、仮にも処方箋を出す医師に損とか得とか言うべきではない。医師もまた患者さんのほうばかりを見ていればよいと思う。門前薬局と利害関係で結びついているからこんな話が漢方の講演の中でも出てくる。  生薬と言う限りある資源がお金のために食い物にされている。