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 国道の交通事故のせいで、旧街道みたいなところに迂回路として警察官に誘導されたのだから、その道は先ほどまでの渋滞に輪をかけたくらい渋滞した。当たり前の話で、ほとんど笑い話だ。あまりの道の狭さにUターンすら出来ずに、1人旅だったことに感謝した。僕一人なら誰に迷惑もかけないから、諦めればすむことだ。  乗用車がすれ違うのがやっとの道幅で、岡山方面に向かう側は、人が歩くのより遅かった先ほどよりまだ遅くなって、猫が歩くくらいのスピードに落ちた。そんな中で出会った光景を紹介する。  突然僕の前を走っていた車の影からカラスが出てきて、歩いて道路を渡り始めた。頭の良いカラスだから今何が起こっているのか分かっている風で、ゆっくりとした歩みだった。渡っている途中に、前方から車がやって来た。恐らく地元の人だろう。津山方面は渋滞はなかったから、この道を通る必要はない。それが証拠にこの迂回路の反対側は。時折しか車には出会わなかった。車が十分近づいたのにカラスは飛ぼうとしない。頭が良くて、ぎりぎりまで判断を延ばしているのだろうと思ったが、至近距離になっても飛ばない。そこで対向車はブレーキをかけクラクションを鳴らした。それでもカラスはスピードを上げることなく、運転手のおかげで山際のコンクリートの壁の下にたどり着いた。コンクリートは高さが3メートルくらいはあるだろうか、その上は急な山に続いている。本来ならその辺りまで飛び上がればいいのだが、なぜかカラスは見上げたあと、おもむろにコンクリート壁に沿って歩き始めた。不思議な行動にカラスを良く見てみると、なんとなく左右が違って見えた。片一方の羽の部分が短い。左右が同じように見えなかった。きっと傷ついているのだ。それで今しがたの光景の全て説明がつく。  ツバメの巣を襲われるようになってから、カラスに対しての印象は悪化の一途だった。ところが、目の前に展開された寸劇には正直心を打たれた。恐らく初めてカラスに対して優しくなれた瞬間だ。傷ついているであろうカラスが哀れに思えた。飛べない鳥のなんて哀れなこと。その生き物の持っている一番の特徴を失ったときの哀れに心が痛む。翻って人間に当てはめても同じ哀しさを感じる。失ってはいけないものを不本意ながら失っている人たちの苦痛を共有し、幸あれと陰ながら祈らずにはおられない。