甘受

 これだけ間引かれると、かなり行動に無駄が出る。行きは昼食をゆっくりとる時間を工面できなかったし、帰りは・・・・それがとんだ拾い物をした。  今までと様子が一変していたので窓口の女性に尋ねた。「ひょっとしたら、積み残しが出るのではないの?」と。すると彼女は、僕が乗ろうとしていたフェリーの前2便とも積み残しが出たって教えてくれた。なんとなく僕が感じれるくらい岸壁に並んでいる車の数が多かったのだ。今日は一人で高松の漢方研究会に出席するから、車は駐車場に置いて人間だけ乗り込めばいい。だから実際には高みの見物だが、もし車で渡ろうとしていたら焦っていただろう。経費節減で1時間半に一本になった四国フェリーの目論見が当たったのだろうが、僕の大好きなフェリーが消えたら何にもならないから多少の不便は甘受する。今回の措置は勿論賛成だ。  2時間の講演だと案内されていたからてっきり3時に終わると思っていた。ところが2時半には終わってしまって、下手したら帰りは予定の便より早く帰れることになった。だがせっかく高松まで来て、特に今回は一人だから自由に楽しんでみようと思って、会場のホテルから丸亀商店街に入っていった。すると程なくハーモニカの力強い音が聞こえ始めた。はるか遠くから聞こえるのだが、ブルースハーモニカ特有の軽快さが伝わってくる。それもかなり上手いように思えた。その音に引き寄せられるように歩いていくと、円形ドームの交差点でライブが行われていた。結構大掛かりで人垣が出来ていた。屋台でなにやらグッズめいたものが売られていた。舞台では3人の男性が演奏していた。ボーカルとギターとハーモニカを担当しているは外国人で、あとの二人は日本人だった。こんな特設舞台で演奏するのはもったいないくらい上手かった。すぐに僕は3人の演奏に引き込まれた。そのうち妙に緑の服を着た人や緑のめがねをかけた人など、緑が目立つことに気がついた。冷静に周りを見回すと、明らかに日本人のスタッフと思しき人のほかに、白人が多くいた。そして円形ドームから降ろされた大きな旗を見て、この催しがなんだか初めて理解できた。第4回アイルランドフェスティバルと書かれていた。道理で曲もアップテンポで、どこか聴いたことがあるような感じがしていた。  ライブの途中の挨拶で分かったのだが、3人組は普段は東京で音楽活動をしていて、CDなども出しているグループで実績は十分らしい。歌も演奏も良かったが、こうした路上での音楽も実力があれば十分人をひきつけることが出来るんだと再認識した。今は余り見かけなくなったが、岡山駅辺りのそれとは全くレベルが違っていた。  フェリーが4時半までなかったのでゆっくりと演奏を聴くことができた。余り接することがないアイルランドの歌、いや、アイルランド人の歌と言ったほうがよさそうだが、それに接することが出来て、今日と言う日が、少し上質になった。