好景気

 何で僕がこんなことをお願いしなければならないのかと思いながらも、余りにももったいないのでかの国の人だけのミサに参加した。そうした下心はあるものの、やはり外国に来てたくましく生きている青年達を見るのは気持ちがいい。ましてあの独特の抑揚の祈りの言葉?歌?は眠気を誘うくらい僕の緊張した日常を弛緩させてくれる。この緩んだ体のままで過ごすことができれば体調もずいぶん良くなるだろうなと、薬剤師ならではの発想をする。  牛窓で働くかの国の青年達に和太鼓のチケットを3回分と、クラシック音楽会のチケットを買ってあげていたのに、なんと会社が好景気で忙しすぎて日曜日も仕事をしているらしい。来週の日曜日が総社で僕の大好きな備中温羅太鼓、その次が丸亀でこれは僕も初めての龍神太鼓、後は3月に入って倉敷で連続である。各々僕を含めて8人分チケットを手に入れていたのだが無駄になる。そこで思いついたのが、今日のかの国の人だけのミサに集まる青年達に「一緒に聴きに行って」とお願いしてみることだった。和太鼓もベートーベンの第九も理解してもらえなければ判断のしようがないので、パンフレットも持参した。そしてミサの後の談笑の席で皆に紹介した。案の定、和太鼓は勿論ベートーベンを知っている人もいなかった。そこでやはり役に立ったのがパンフレットだった。日本文化そのもののような和太鼓のパンフレット、壮観な第九の舞台の風景を見た青年達は、先を争って希望してくれた。20人くらいその場に残っていたが、日本に来て、日本の文化活動に触れた経験がある人は一人もいなかった。これでは、日本にいようが、ニューヨークにいようが、ホーチミンにいようが同じだ。毎日を生活の糧を得るためだけに消化するだけだ。  お願いに行ったのだが、逆に限られたチケットの数では全員の希望に添えないことになった。それぞれが一緒に聴きに行きたい友人を持っていて、そのほとんどの人と僕は面識がないのだが、友情の掛け算に僕のチケットの数では間に合わない。でも正直肩の荷が下りた。一人で8人分の席に陣取る惨めさから解放された。