山陰

 ああ、これもありなんだと思った。  僕は山陰の女性には情が移りやすいと見えて、ぜひこの若い女性にも元気になってほしいと思っていた。ただ、処方した漢方薬が功を奏しないのか、すぐ諦めて、2週間しか飲まない習性があり、薬が効かないのか熱心でないのか毎回突然現れるその女性の効果の判定に戸惑っていた。あるセールスに、結婚するなら山陰の女性に限ると息子の件で吹き込まれて、全てが贔屓目で見てしまうのかもしれないが、実際僕がお会いした数人の女性は、どこか山陰の空のように秘めたものを持っていて、明るさだけを強調されて後ろに引く癖のある僕には心地よい人たちばかりだった。  今僕の手元には、ベートーベンの第九のコンサートの2回分のチケットと和太鼓のコンサートのチケット3回分がある。3月分まで買い揃えている。かの国の人たちをどう振り分けようかと思っていたところ、山陰出身で岡山市に住んでいる女性が漢方薬を取りに来た。以前薬を作る間、ユーチューブで和太鼓の演奏を聴いていてもらったことがあり、かなり興味を持ってくれた事を思いだし、彼女を誘ってみた。するとすぐに承諾してくれて、総社の備中温羅太鼓に一緒に行くことが決まった。恐らく後の6人はかの国の女性だと思うが、人が苦手な彼女には、とても優しいかの国の女性達との交流が思い出深いものになってくれると思う。嘗て多くの心寂しい僕の患者さんを彼女達が救ってくれたから、それも期待している。ただ、前回作った漢方薬が、劇的に効きそうなので、その必要はないかもしれないが、遠い異国の地で懸命に働いている人達と接するのはいいことだと思う。  僕は今までかの国の人たちだけをコンサートに連れて行っていたが、日本人で和太鼓が好きな人と一緒に連れて行ってあげればどちらもが心温まる経験をつんでくれるのではないかと思った。差別や垣根のない交流で、どちらも満足がいく日になると思う。 もっと早く気がついていればよかった。僕の漢方薬を飲んでくれている、今を生き辛い人に、和太鼓とかの国の人の魅力を伝えたい。