お神楽

今年も伊勢神宮のお神楽がやってきた。僕にとっては、夏には欠かせない風物詩だ。誰もが知っていると勝手に思っていたら見たことも聞いたこともいない人が世の中にはいるらしい。それもよりによって、すぐそばにいたからショックだ。3時に帰りますというのを引き止めて、強引に?恩着せがましく?見せてあげた。 お神楽を見て感激するのは僕くらいなものかもしれない。僕の家族もことさら大喜びするでもない。ただ昔からの風習で丁寧にもてなして家内安全を祈る。それ以下でもそれ以上でもないみたいだ。和太鼓を追っかけ、お神楽を心待ちにする僕は、どれだけ古風なのかと外からは見られるかもしれないが、それほどではない。ただこの2つに限っては心が打たれ踊る。 予想に反して薬剤師はクールだった。ただ初めて見た事をとても強調していた。と言うことはお神楽そのものには感激しなかったのだろう。それはそうだろう、単純な動きでしかないのだから。ただ僕には目の前に繰り広げられる数分間の舞が、一瞬にして人生絵巻を僕の心の中で広げてくれるのだ。そこには祖父母や父が登場する。普段頭をよぎりもしない人たちがよみがえってくるのだ。幼い頃とても大切にしてもらった至福の記憶とともに。 僕は、愛とは疎遠の現代の若者に、かつて僕がもらった愛情の何分の一かでも返してあげたいと思っている。かつては当然のようにあった愛に、当然のようにない現代の一部の若者たちにそっと触れてもらいたいと思っている。それも気がつかないように自然な形で。 何十年ぶりに、お獅子の大きな口で頭をかぶってもらおうかな。健康で健やかに成長するといわれているが、健康で健やかに老いるために。