悪代官

 「これは痛い」僕の唯一の慰めと言っていいのに。
 昨日は最初から最後まで水戸黄門のドラマが見れる休日だった。いつもは最後の10分だけ2階に上がってテレビの前に腰掛け涙を流すのだが、昨日涙の後に告げられたのは、来週から水戸黄門の放送時間が朝の10時頃に変わるってことだった。これはもう無理。さすがに午前中に2階に上がっては行けない。家族の顰蹙を買ってしまう。
 午後4時50分からの10分のために、僕は昼食を10分から15分で済まし、すぐに仕事に復帰する。クロネコヤマトが4時半に集荷に来てくれるから、それまでにほぼ調剤を済ましたい。時に間に合わないこともあり、水戸黄門を見終えてからすぐ仕事に復帰し、クロネコヤマトの営業所まで荷物を持っていってもらうこともある。その時間帯に一応の僕のノルマが完成するのだが、仕事からの束の間の解放とともに、「正義が勝つ」と言う、当たり前のことがほとんどありえない現代に、当たり前のことを作り話の中でせめて体験して感動すると言う疑似体験で鬱積した気持ちも解放しているのだ。
 日曜日、僕の友人に鍼を打ってもらったとき、彼が舌を見せてというから診てもらった。彼曰く、意外とストレスがないそうだ。舌の何を見てそう判断するのか分からないが、僕はその判断が正しいと思った。結構よく働いているが、そして身の丈以上のテーマを与えられ続けているが、僕は毎日の水戸黄門で涙を流すことによってストレスをかなり消しているような気がしていた。見た後は気持ちがとても楽になるのだ。あと2時間で仕事が終れるというのもあるかもしれないが、感激で涙を流すという行為が大きいのではないかと思っている。
 来週からその特効薬が見えなくなりそうだから、心の安定を保つことが少しばかり難しくなるかもしれない。再、再、再・・・・放送を見続けて40年。ついに終る。自分を傷つけることなく働く。難しいが、それができないと人様の役になど立てない。現代の水戸黄門、早く出てきてあの悪代官、汚部を打ち首獄門にしておくれ。