処方箋を持ってきた男性が「昼は家で水戸黄門を見ている」と言ったから、これはかなりの通だと感じた。再放送を毎日見るのは余程好きなのだ。その勘は当たっていて「今のは里見浩太朗だから面白くねえわ、西村晃や、東野英治郎がやはりええわ」と言った。これはやはりかなりの通だ。  以前から僕以外の人で試してみたかったことがあったから、これはよい機会と思い質問してみた。「ご主人は正義感が強いんじゃないの?」と。「悪い奴らを見ていたら許せれないのではないの?」と続けるとさすがにそうなんだとは答えなかった。しかし、この辺りの漁師特有の返事をした。「パチンコ屋で昨日、怒鳴りあげたんじゃ。2台占領しとる奴がおったから、1台にせえと言うたんじゃ。ちゃんと決まりがあるのに守らん奴おるんじゃ」「やはり正義感が強いんじゃないの」と持ち上げても、決してそうとは言わない。肯定がまるで恥かのような答え方をする。ハイなどとは決して言わない。「そいつは何回言ってもするんじゃ、だからどやしつけてやったんじゃ」「でも勇気あるじゃない、水戸黄門が好きな人は、悪い奴らが嫌いなんだと思うよ。そいつらがやられるところを見て、何とか自分を慰めているんだと思うよ」「だけどワシも相手を見とるんよ。そいつは年寄りじゃもん、若い奴だったらぶすっとやられる」この人がもう70を過ぎているのだからひょっとしたら相手は80歳代かもしれない。80を過ぎた老人が楽しんでいるのだから黙って見過ごしてあげたらと思うが、ここで持ち上げていたものを又降ろすわけには行かない。そこで僕は優しく言った「それは正義感ではなく、単なるお節介じゃ」