二束三文

早起きは・・・二束三文。 昨夜寝る前に一人でテレビを見ながらスイカを食べた。喉が渇いていたから結構食べたような気がする。スイカの利尿作用を見直した一夜だった。と言うのは朝までに3回トイレに起きた。そして4回目が5時だったので、もうその時点で起き上がった。 いつものように新聞を20分くらいかけて読み、その後は駐車場で草を抜く。さすがに今日はいつもより30分くらい早いが、おおむねこのような生活を繰り返している。 結構草取りは邪念から解放されて気持ちがいい。夢中になって時間を忘れることもあるくらいだ。だから一台のオートバイが静かにそばを走り去ったのはわかったが、それがUターンして戻ってきたのには気がつかなかった。オートバイの主が声をかけてくれて初めてわかった。彼は近所で寝具やカーテンなどを販売している男性だが、小さなバケツを持っていてその中の獲物を見せてくれた。大きな貝が二つと、にょろにょろと動いている蛇みたいな魚が一匹だ。結構大きな貝だったので「アワビ?」と尋ねると「ダテ貝(忘れた、こんな感じだった)」にょろにょろまだ十分生きがよいほうは「うなぎ?」「アナゴ」と、まるで外れた。「大和さんと話していると都会の人と話しているようじゃなあ」と笑っていた。この垢抜けた僕の風貌と品を見ればそれが冗談には思えないが、結構かつての潮の香りは僕の頭からは消えている。彼は夜のうちに網を仕掛けて、早朝上げに行くそうで、それが何よりの楽しみといっていた。海辺の生活を十二分に楽しんでいる。そう言えばオートバイに仕掛けも積んでいて、それを見せてくれた。誰にでも作れて、どこででもしかけれるんだとそれを見て思った。だって、彼が昨夜仕掛けていた場所は数分で歩いていけるクルーザーを販売している会社の堤防だったのだから。 彼と数分間の会話を楽しんで家のほうに帰ろうと道端に立っていると、一台の軽四が止まった。見ると、法務局に出張を繰り返した僕の友人だ。車の中から僕に「早いなあ」と声をかけてきたが、彼のほうが早い。どうしてこんなに早くから行動しているのかと思って尋ねると「邑久町に仕事に行く」と言った。この前まで自転車だったのに、車に乗って仕事に行く?友人の僕としてはうれしいことだし安心だ。僕が昔となんら変わりなく楽しく付き合うことが多くの住民にとっては不思議らしく、怪訝な顔をよくされる。ただ僕はそんなことはまったく気にならないから、今でも親友だと公言する。  実はこの朝出会った二人に共通するものが一つだけある。まじめに家業に専念している人も、道を踏み外して法務局に長期出張を繰り返す人も、並外れたギャグ名人なのだ。一緒にいると機関銃のように笑わせてくれる。テレビに出てくる能無しタレントたちより何倍も面白い。いわば草野球が大リーグに勝つくらいの話だ。いや草サッカーがメッシに勝つようなものだ。いや、ヤマト薬局がマツキヨに勝つようなものだ。とにかく人の何倍も僕は(いや牛窓の人たちは)この二人のおかげで笑いあふれる人生を送れた。どれだけウツウツとした僕に健全な免疫を与えてくれただろう。感謝感謝だ。なんでもないような日常も積み重ねれば、とても大きな力になる。僕ら田舎で暮らす人間は二束三文かもしれないが、健全さにおいては負けないかもしれない。たとえ法務局に出張を繰り返していても。