勤労奉仕

 法務省に過去2回出張していた人が最近しばしば訪ねて来る。今日はお百姓にもらったキャベツを一つ持ってきてくれた。彼が最近足しげく通ってくるのには訳がある。それは秋に大和家の墓地の掃除をボランティアでしてくれたのに、肝心の僕が見に行っていないのだ。と言うことはお墓参りにも行っていないと暴露しているようなものだが、彼はそのことを責めているのではない。他人のお墓を掃除してくれるなんて、なんて殊勝な人だろうと思うが、その通りで殊勝なのだ。ただ酒で身上をつぶしたから法務局に出張する羽目になったが、本来は善人だ。その彼の懸念材料は、「本当に草一本残さずにきれいにした」ことの証拠が消えてしまうことだ。まだ寒いとはいえ、我が家の駐車場でも花が開き始めた。だから草はもう生え始めていると言うのだ。もし草が生えていたら、彼の勤労奉仕を信用してもらえなくなる。だから焦っているのだ。法務局帰りと言うハンディーを彼も知っているから、気を回しているのだ。  ところが僕はそんなことで差別をしない。もっと悪いやつで、もっとたちの悪いことで、法務局に出張どころか、法務局を操っているやつらがいる。嫌悪はそちらには向くが、たった数千円で自由を奪われた小市民には好感さえ持つ。「ジャズのコンサートはねんかな(ないのですか)?」が唯一の報酬で他人の墓お掃除してくれる。草の生命力に圧倒されそうな年齢になったが、腐れ縁だけは続く。