転送

 転送されてきた郵便物は、父がやっていた薬局宛のもので、父の名前が書かれていた。もう亡くなってから10年は経ちそうなのだが、結構管理はされていないんだなあと感じた。もっとも父が亡くなり廃業したことなど日赤には届けていないから、分からなくて当たり前とも思うが、あんな大きな組織なら、庶民の情報など筒抜けのような気もする。もしそうでないとすれば、逆に信頼できるとも言えるが。  全てお見通しの世の中になりそうで、いやもうなっているに違いないが、公には未だ言わないのだろう。不都合な人間の情報は磁石のように吸い寄せられて、お友達グループの安泰のために使われるだろう。  父は不都合な人ではなく、好まれる人種だったから、日赤にも寄付をしていたのかもしれない。息子とは違っていた。いや、逆だ。息子は父に似ていなかった。寧ろ父を反面教師とし、お友達グループのおこぼれを欲しないことにした。だからその筋からおこぼれは何も頂戴できなかったが、いつも自由はあった。身の丈を自然体で演じることが出来たから、人生は楽だった。威張りもせず、卑下もせず、傷つけもせず、傷つけられもせず。  死んでも尚いい人でいる父は家族には忘れられているのに、日赤ではデータとして生かされている。クリック一つで葬れるのに。