教訓

 岡山県の東と西に離れているが、ほとんど年齢が近いためにまるで同級生のように会話をしながら漢方薬を送っている人がいる。ご本人には辛い出来事だが、余りにも大切な示唆を含んでいるので、プライバシーに配慮しながら披露したいと思う。きっとその方も許してくれると思う。  いつものように楽しく話をしていたら、勿論表向きは問診だが、兄弟が自死を遂げたと打ち明けられた。日にちが少し経っていたのでそんなに打ちのめされたと言うほどではなかったので僕は救われた。自ら命を絶った理由は、術後の腹痛だったそうだ。腸の癒着で複数回手術を経験しているらしいが、今回は術後の痛みが耐え難いものだったのだ。救急で助けを求めたこともあるらしい。そして亡くなる前日、主治医に我慢するしかないと言われたらしい。それで亡くなったのだから忍耐の限界を超えていたのだと思う。  この経緯を聞いて、僕は残念だった。もちろん遠くに住んでいる方らしいから、接点を持つことは難しいし、もし相談されて僕の漢方薬が果たしてどのくらい効くかも疑わしい。ただ、現代薬でお手上げの時にこそ漢方薬が真価を発揮できることは、30年の間に数え切れないくらい経験してきた。だから癒着の痛みを取る漢方薬を試してみたかった。結構漢方薬はその分野が得意だから、ひょっとしたらと、うぬぼれではなく思ってしまう。  僕は今日の会話の中で2つの教訓を得た。「死んだほうがまし」と言えるほど辛いことって身の回りに起こりうる。他者には想像できないから、我慢してとつい言ってしまうが、我慢できないくらいの苦痛を持って暮らしている人がいるってことに思いを巡らさなければならないこと。そして現代薬以外にも救って上げられるものが存在しているかもしれないってことを知らしめること。  未熟な僕が言うと説得力に欠けるが、少しばかり漢方をかじっている人間からすれば、本当に悔やまれる出来事なのだ。