顔色

 朝食が終わって出かける前に息子が「○○○○と○○○湯を頂戴」と言った。聞くと月曜日から風邪をひいていて、熱は下がったけれど昨夜は咳き込んで寝にくかったらしい。喉も痛いという。いつも薄着でいるから元気そうに見える。だから風邪をひいていることには気がつかなかった。症状を確かめると、くれという処方で勿論正しいが、咳に関しては少しものたりなかった。だから僕が併用するべきと思った処方を説明して作って飲ませた。 今し方帰ってきたから症状を尋ねたら、喉痛は完全になくなり咳もほとんど気にならなかったらしい。今夜もし咳き込まなければしめたものだ。向こうから漢方薬を希望してきたのだから、そして指名した処方がかなりいい線をいっていたから、少しは実力が付いているのだろうと思った。なかなか漢方薬を使うチャンスもないし、そんな余力もないみたいだが、こんな時に少しでも漢方薬の力を見直し、正しい使い方を覚えてくれたらと、親馬鹿を発揮する。所詮サラリーマンだから自分の裁量はかなり限られているみたいで、もどかしさもかなりあるらしいが、現代薬で救われない人を正しい漢方薬で救って欲しい。だが実はこの正しいというのが難しい。どの業界でも同じだが、企業などと言うものは決して国民の幸せなどを存在意義の上位になんか設定していない。オーナーやその仲間達の限られた集団の利益が最優先だ。どこで戦争が起ころうが、どこで疫病が流行ろうが、どこが天災に見舞われようが、そんなことは彼らの思いに何の影響も及ぼさない。金、金、金、銭、銭、銭だ。製薬会社だって同じだ。良質な薬草から良質な漢方薬を作り良質な値段で病者に提供する。こんな当たり前のことが出来ているところが一体どのくらいの割合であるのだろう。役人は政治家の顔色をうかがい、製薬会社は医者の顔色をうかがい、医者は役人の顔色をうかがい、薬局は病院の顔色をうかがい、誰が患者の顔色をうかがってくれるのだろう。  韓国の水難事故で、高校生達に自分の救命胴衣を与え命を救ったと言うアルバイトの女性は、僕達が滅多に遭遇しない正義感の持ち主だから、希有の人だから感銘を与える。いじめのアンケートが国家機密だと主張する超エリート集団のニュースとの余りにも次元の違いに情けなくなる。この国で正義感などというものは、何処でどうすれば培われるのだろう。  炎天下で、急斜面で、腰痛と闘いながら収穫してくれた薬草をせめて正しく使いたいと思っている。小さすぎる正義だが。