耳鼻科

 電話を受けた妻が対応に苦慮していた。そのうち手に負えないと思ったのか僕に振ってきた。電話の向こうでは老人が、一所懸命何かを訴えようとしていた。その訴えに悪意は全く感じられないから当然僕は理解しようと努力した。ただいくら僕のチラシを見てくれたと言ってもさすがに「三寒四温」と言う病気は載せていない。  「三寒四温の薬がありますかな?チラシに載っていたんですけど」数回聞き直したが同じ言葉を繰り返す。僕もこうなれば国語の時間だと思って「三寒四温って、寒い日が3日あれば、寒い日がその後4日続くってことでしょう?冬のことを言ったり、春が近づくときにも言ったりするやつですよね?」と合っているのかどうか分からないが、どうせその道は素人だから知ったかぶりで説明した。すると老人は「天気のことではないんですら、耳の病気であるじゃろう。耳鼻科の先生に言われて2週間前に薬をもらったのに全然効かんのじゃ」ここまで自信を持って言われると僕もさすがに自分の不勉強を恥じた。「耳鼻科の病気で三寒四温ってのがあるんですか?」「2週間前から目が回って、耳鼻科へ行ったら先生がそう説明してくださったんじゃ。三寒四温が調子を崩しとるらしんじゃ。脳の方から来とるかもしれんから、脳の検査もしてくるように言われたんじゃけど、脳はどこも悪くないらしんじゃ。残っとるんは三寒四温だけじゃ。漢方薬三寒四温を治してもらえんじゃろうか?」  耳鼻科?目が回る?この2つのキーワードである言葉が浮かんだ。「三半規管ですか?」「そうじゃ、そう言っとった。難しいから覚えれん」  入り口でかなり手こずったが、要は目が回るのではなくクラッとするトラブルらしい。 不安な気持ちが十分伝わってくる。とんでもない名前の間違いに心も和んだが、降って湧いたようなトラブルに動揺を隠せない老人の役に立てればと思わずにはおれない。楽しくてやがて悲しいのは祭りだけではない。