「台所で料理をしているときについ涙が溢れてくるんです」だから頭がおかしくなったんだろうかと心配になってきてくれたのだが、おかしくなったどころか、正常も正常、誰もが鏡にしたいような人物だ。  その人の苦労と言うべきものは、僕の100倍?1000倍?とにかく比べものにならないくらいだ。本当に真剣に誠意を持って尽くしている人だから、体力が落ち、気力が萎えたときふと涙を流すことなど当たり前の事だ。むしろ、ふと流すどころか号泣すると打ち明けられる方が自然なほどだ。いつも僕が応対するときは笑顔が溢れているから、その笑顔の源を教えて欲しいくらいだ。まず普通の人なら同じことは出来ないだろうし、彼女が抱えているものの大きさを思えば笑顔を絶やさないなんて至難の業だ。  泣くことはかなりのストレス解消効果があるという研究成果を目にしたことがある。それが本当なら、彼女は自然に心の休息をとっていることになる。世に言う娯楽のほとんどを犠牲にして尽くしている彼女が唯一逃げ込めるところが涙なら、救いの涙なのだ。 あの強くて優しい心が折れないように、体力を体調を保証するのが僕の役目だと思うから、喜んで煎じ薬を作らせてもらったが、本当は僕が彼女の爪の垢を煎じて飲んだ方がいいのかもしれない。