身軽

 今日から僕も新学期だ。最も慕ってくれていたかの国の子が一人帰ったので、今日からは新しい組み合わせで新しいスタートだ。先月までのペアが甘え上手だった分、他の女性達は遠慮していた。不公平感は避けたかったが、実際にはかなりの不公平を強いてしまったと思う。
 ペアの一人が新しい子と一緒に岡山へ買い物に行きたいと言ってきた。実はその子とは昨年高松に漢方の勉強会を兼ねて一緒に行ったのだが、その後は遠慮して一緒に行動することはなかった。1年近く彼女は日本人と親しくなるチャンスと日本を見るチャンスを失っていた。初めて会ったとき日本語を勉強したいと言っていたが、結局そのチャンスはなかったみたいだ。1年前と同じくらいの日本語の能力だった。 前置きが長くなったが、今日その子が買いたかったのはパソコンのマウスだ。リトルカメラかなんとかという大型店舗に買いに行ったのだが、そこでその子が「オトウサン、ニホンノマウス、カイタイ」と言った。そう言いながら、一杯陳列しているマウスを一つずつ裏返しては何かを確認していた。日本の代表的なその種の店に来て日本のものを買いたいとは不思議なことを言うなと思っていると、その子が一つのマウスを僕に渡して裏に書いてある生産国名を見せた。見るとメイドインチャイナだった。それからどのくらいの数のマウスを裏返してみただろう、ことごとくチャイナ製だった。こんな有名店が日本のものを売らずに、あちらのものを売っているのかと残念だった。これらのものを日本の工場で日本人が作ればどれだけ日本に、地域にお金が落ちるだろうとふと考えてしまった。 一人で行動すれば決して近寄らないような所に行けるメリットが、彼女達と一緒に行動すればある。今日の小さな驚きも、又その知識も彼女たちあってのことだ。動かずの大和も立派な動機さえ与えられれば身軽になれる。いやそれ以前に薬剤師を離れることが出来るから気軽になれるのかもしれない。