唐辛子

 食物も植物も苦手だから、正しく書けるかどうか分からないが、「まいった、まいった」体験をしたので披露する。 雑炊の傍にまるで漬け物のように少しの野菜が添えてあったので、先にその野菜の方に箸を伸ばした。昨夜かの国の女性が作って持ってきてくれた酢漬けのようなものだ。ネスカフェの空き瓶に入れて持ってきてくれていたから、結構沢山あったが、いつもの苦手意識で興味はなかった。昼食にその一部だろうものが小さな皿に載っていたが、少量だったので独特の香りもせずに、ごく自然に箸を伸ばしたのだ。ところが少しばかり咀嚼してその野菜を飲み込んだ後から、口内が、いや唇までもが火傷状態になったのだ。それこそ「ヒイヒイ、ハアハア」言って空気を送っても火傷状態は一向に収まらない。熱いのなんのでいたたまれずに、冷蔵庫の牛乳を口に含んだら少し痛みが治まった。しかし、牛乳を飲み込んでしまうと元の木阿弥で、痛みが復活する。何口も牛乳を含んでは飲み込んだが一向に収まらない。牛乳をそんなに沢山飲むわけにもいかないので、氷を含もうとしたら、製氷室は空っぽだった。ふとアイスクリームが残っているのを思い出して探すと、チョコレート最中があった。まるで雑炊とは不釣り合いだが、そんなことは言っておれないので氷がわりに少しずつ口に含みながら食べた。いつもなら美味しく食べるのだが、冷やすことが目的だから、味気なくひたすら義務的に口に運んだ。一つ食べ終わっても一向に収まらなかった。仕方なく過剰に摂取しても問題がなさそうだから水を含んだり飲むことにした。  結局、昼のNHKドラマの純と愛の間中「ヒイヒイハアハア」言っていたことになる。 日本みたいに如何にも唐辛子ですよと言うように赤色なら僕も少しは警戒気味に食べるのだが、緑色だし、しかも切っていたので全く想像もしなかった。緑色の唐辛子があることすら知らなかったし、唐辛子を他の野菜とミックスしてサラダのように食べることも想像できなかったので、無防備に食べてしまったが、よく考えてみればかの国の女性はと唐辛子が好きで、薬局の横のプランタに生えていた唐辛子をちぎっては美味しい美味しいと言いながら口に持っていっていた。辛みに対して感受性が弱いのかどうか知らないが、見ているだけでぞっとしそうな光景だった。 いつまでも口の中の火事が収まらないので、一瞬なんでこんな目にあわなければならないのと恨めしく思ったが、誰も非難することは出来ない。善意の結果がこの始末だが、何の落ち度も悪意もない。単なるお国柄の違いだけだ。まさかかの国の人達は口の中を鍛えているのではないだろうな。僕はいへらず口は鍛えてきたが、中まで鍛えるのは忘れていた。