加工食品

 買い物カートに次から次に入れていき、山の様になったから、一体いくらするのかと心配になった。肉あり魚あり野菜あり、果てはインスタントラーメンまであるから、それなりに考えているのだろうが、食料品を買ったことなど無い僕には見当がつかなかった。「こんなに沢山買っていったいいくらくらいするの?」と驚きの声をあげた僕に、「1万円」とカートを引いていない方の女性が答えた。 何の根拠で1万円と即座に答えれたのか分からなかったが、不思議なことに本当にほとんど1万円だった。もう2年以上、同じスーパーで買い物をしているからおよその見当はつくものと理解した。僕は妻が食べ物をカートに山盛りにするような買い方をするのを見たことがないので、異様な光景に見えたのだが、彼女たちが僕に説明してくれたのは「二人の2週間分」と言うことだった。となると不思議ではないなと納得するが、それだと新たな不思議が誕生する。二人で2週間分というと、一人だと1日分が350円見当になる。昼も会社に弁当を持参しているから3食で350円とはかなり節約している金額ではないかと思う。まして時々我が家に手作りの食べ物を持ってきてくれたりするのだから、一体どの様な食生活をしているのかと思う。  ところが彼女たちは至って健康なのだ。ほとんど病気をしない。吐いたときと倒れたときしか病院には行かないと昨年帰った通訳は言っていたが、それも頷ける。そして、今日僕は彼女達の買い物の様子を間近に見て気がついたのだ。彼女たちは出来上がったものをほとんど買わない。インスタントラーメン以外は全部素材だった。全部自分たちで料理するのだ。だからあの食料品代で健康な生活が、そして経済が保証されるのだ。いくら祖国の何倍も給料をもらえても、残せなかったら、そして国に持って帰れなければ何の意味もない。少ない給料の半分でも残せばきっと国に帰った時、かなりの蓄えになる筈だ。  彼女たちを見習えば我が家でももっと節約できるに違いない。決して贅沢はしていないつもりでも、そもそも基本が違えば比べることも出来ない。手間暇を買う人と、素材を買う人とすでに土壌が違う。  テレビでは恐らく戦前に戻るのかというような世の流れが映し出されているだろう。不愉快も極まるからもうその手のものは観ないことにした。あいつらには一切頼らず、期待せず生きていく。所詮加工品やインスタントの偽物の集まりだから。