教材

 どうも分かっていないらしい。いくら言っても同じことをくり返す。  身体にたいして神経質な人は多いが、この人の右に出る人は今だ知らない。そのおかげで僕も一杯漢方薬の勉強をさせてもらったが、もうそろそろ教材になってくれなくても僕は独り立ちしているのだが、今だしこしこと病気を作っては通ってくれる。最近は奧さんまで僕の教材にしてくれて頻繁に通ってくる。この前は不整脈が見事に治って僕も恩返しできたのだが、今回は心臓発作だ。息がしにくくなって胸のあたりが苦しいらしいのだ。苦しい苦しいと言って胸のあたりを押さえているというのだ。「何であんなに弱いんじゃろうな、大きな病院でも連れていかんでもいいじゃろうか」と言うその一言で僕には症状も原因も又対処法も分かった。要はあんたが原因なのだ。  「○○さん、又奥さんにうるさく言ったんじゃろう」と僕が尋ねると決してそうだとは言わない。それどころか奥さんの至らなさをあげつらう。「○○さんがきついことを言うから奥さんがビビッてしまって心臓発作みたいなものを起こすんじゃないの。奥さんは心臓なんか悪いことはないよ。以前の不整脈だって同じ原因だよ、あんたが悪い」いくら言っても聞く耳は持っていない。「よく効く漢方薬を作って」と又いつものように僕に教材をくれる。  現代人のストレスは悲しいかな家と職場。どこにいても何かと誰かと常に戦っている。心臓でも胃でも腸でも何か犠牲にしないとやっておれない。命はどこかを犠牲にして守られる。うまくできているものだ。「奥さんの症状は1日でとれるから3日分だけ漢方薬を作るよ。でも○○さん、その顔をどうにかしたら、その恐そうな顔」・・・・なんて言葉も又聞き流されているのだろう。