邪道

 さすがに床を変えたら皆さん気がついてくれた。先週は壁紙で討ち死にしたから又返り討ちに会うのかと思っていたら、今日は来る人の9割の人が口に出して反応してくれた。そのほとんどが好意的な評価で、最も僕を、いや娘を喜ばせたのは「カフェのよう」と言う感想だった。恐らくその辺りを意識してデザイナーの方に頼んだのだろうから、少しばかりの達成感があったのかもしれない。  改装と言っても最小限の経費でやってもらうのだから、大きなことは望めなかったが、デザイナーの倹約志向と相まって、予想以上の変身が出来たような気がする。什器などは一つを除いて全て使用中のものばかりなのだが、背景が異なるとそれさえ新品の個性的なもののように見えるから不思議だ。嘗て高額な什器を揃えていたが、今は本当に廉価なものでそれなりの目的を達することが出来る。デザイナーの助言で、新たに採用したものも、よくテレビでコマーシャルを見かける、なんという会社のものだったか・・・関取、いやあやとり、いや違うな、ゴミ取り、いやなんか違う・・・舵取り、受け取り・・・まあ、なんかトリと言うような名前だった気がするが、そこで手に入れたからとても安くすんだ。便利と言えば便利だが、昔なら什器一つ作れば職人が1ヶ月食えるのではないかというような値段だったが、今なら日当にしかならないのではないか。どちらがいいのか分からないが、「気に入らなければ又変えればいいが」などと言ってしまえる自分に驚く。変えれなくて20年近く手をつけなかったのに、安く仕上がることが分かったら口から出る言葉も大きくなる。  ただ一人「今までので充分だったのに」と言ってくれた女性がいる。さすがに色々なところが古びて来たから、あのままずっとというわけには行かないが、薬局の本質は、特に僕の薬局のように漢方薬などで効くか効かないかの勝負を毎日している所では、舞台装置みたいなもので人を呼ぶ方法は邪道に近い。色の濃い重厚そうな新しい床を磨くより、まだまだ腕を磨いた方がいいのかもしれない。