魂胆

 「あんたが『きっと喜んでいただけますよ』と言ったから、又信じて飲むと言っています」としみじみ言ってくれたが、そんな言い回しの癖があるんだと自分で気がついた。経験上、漢方薬でないと効果が出ないと予測が付くことは沢山ある。効く確率が高い症状も分かる。きっと漢方薬の圧倒的な適応症の場合に、上記のような言い方を好んでするのだと思う。僕は基本的には自分から何も勧めない。頼まれたことだけやり、頼まれた薬だけ出す。ただ相談が多いので、最終的には相手の判断を待つのだが、その時にああ漢方薬を飲んだらこの人は救われると思ったときに選ぶ言葉だと思う。 この男性は、肺ガンの手術の後に咳が出て日常生活の質がかなり悪くて困っていた。2週間分の漢方薬でどっと楽になったから楽しみに2週間毎取りに来る。最近では用心のマスクさえはずしている。実はその方の奥さんが、これも又ある手術の後ヘルペスが出て、今は後遺症の痛みで苦しんでいる。これは僕は半年くらいかかると思っていたのだが、2週間で早々と諦めてしまった。病院の薬で1年半以上全く痛みが治まらないのに、僕の猶予は2週間だから、漢方薬局は針のむしろの上で仕事をしているようなものだ。それはさておいて、ご主人の調子がすこぶる良いので、僕が「奥さんも真面目に飲んで頂ければきっと喜んでいただけますよ」と言ったのを伝えたらしい。その結果が冒頭の奥さんの伝言なのだ。  人は何か魂胆があればとても雄弁になり自信家になる。でも運のいいことに僕の薬局の全員は魂胆が必要ないのだ。法外の報酬を目論んでそれを得たとしても、正しい使い道を知らないのだ。まして正しくない使い道など余計知らない。だからそこそこでいいのだ。確率の仕事をしている以上 「よく効きます」なんて口が裂けても言えない。どんなトラブルでも1割症状が改善すればとても楽になる。そんな積み重ねの仕事を長年やっているから自ずと謙遜になれる。そんな僕が「喜んでもらえますよ」と口にしたら、一気に8,9割改善があるかもしれないから期待して欲しい。