差し引き

 この歳にして初めて耳にする単語「調理靴」  薬局は引きこもってする職種だが運のいいことに訪ねてきてくれる人が毎日多種多様だから、耳学問だけは蓄積される。田舎の薬局だから立派な人とは縁が少なくて偏りはあるだろうが、それだからこその知識も侮れない。 あるトラブルで最近お世話している若い男性は、岡山市で繁盛しているスパゲッティー専門店の(今風に言うとパスタのお店?)コックさんだ。(今風に言うとシェフ?)今日彼の足を見せてもらわなければならないことがあって、「職場では長靴を履いているの?」と尋ねた。そこで返ってきたのが人生初耳の「調理靴」だったのだ。僕の勝手なイメージだと、白い服に白い長靴だが、そうではないらしい。調理靴がどんなものか興味があったから尋ねると、つま先には金具が入っていて、足首まで覆う生地は水を弾くけれど通気性が良くできていると教えてくれた。床に水を撒くことが多いからその条件を満たしているのだろうが、金具が先端についているってのが腑に落ちない。まるで安全靴ではないか。彼がこの疑問に答えてくれたのだが、重い鍋などを落したときのダメージを防ぐためには必需品らしいのだ。必要が生み出した代物だろうがそれぞれの職種にそれぞれの必需品があって興味深かった。  今日又僕は一つ新しいことを覚えて利口になった。ただ今日僕は覚えていたことを二つ忘れたから、差し引き一つ馬鹿になった。