平成35年

 薬局は開設許可を6年に1度更新する。それをしないと営業できない。薬局には他にも許可をもらわなければならないものがある。毒物劇物販売業、麻薬小売業、薬局製剤製造業 、薬局製剤製造販売業などがそうで、僕の薬局でも一応全部要件を満たして許可をもらっている。  毒物劇物販売業は今ではあまり薬局での需要はないが、塩酸や苛性ソーダーなどが該当する。昔はトイレをきれいにしたり油を落とすために使うことが多く結構需要はあった。今はほとんど必要ない。逆に最近必要なのは麻薬小売業だ。これは別に麻薬の密売人をするために必要な免許ではない。病院から時々痛みをとるために麻薬に指定された薬が処方箋で出ることがある。そのために取っている許可だ。薬局製剤製造業 、薬局製剤製造販売業は僕の薬局にとってはとても大切な免許だ。薬局だけに作ることが認められている処方で僕が作る漢方薬の多くがこれに依拠している。煎じ薬はエキスの倍くらい効くから、この免許は不可欠だ。また娘が勉強して作っている薬局製剤は、今は僕の薬局には必需品で、メーカーの薬はなくても薬局製剤だけでかなりの病気に対応できる。それが証拠に多くの方が毎日色々なものをとりに来てくれる。今の時期一番多いのは、腋臭や汗のにおいを消すローションタイプの塗り薬だ。  つい最近これらの許可書の更新があって、役所から新しいものが届いた。そしてそれを何気なく見ていてある衝撃的な発見をした。次の更新が当然6年後なのだが、もしかしたらその時僕はいないのではないかと思ったのだ。6年後は70歳を回っている。薬剤師として役に立てるかどうかと言う懸念より「その時僕はまだいるの?」と言う不安のほうが勝った。ひょっとしたら僕は既にこの世の人間ではないかもしれない。まだ生きていると言う前提がまるで根拠のないもののように思えたのだ。はっきりと数字で表されると、次の更新年月ははるか遠くの、辿り着けそうにない目的地のように思えたのだ。  僕ら世代や少し上の人たちは毎日どのような気持ちで暮らしているのだろう。ずっと生きると言う前提で揺らぎもないのだろうか。日常の忙しさにかまけてそんなことを考えてもみなかったが、青年の頃は遥か遠くにあったゴールがもう手の届くところにきたことをあの許可証で思い知らされた。僕はそろそろ1つの接頭語を捨てなければならないかもしれない。「この先」と言う。