督促状

 一体どの様な設備が整っていたらこんなことが出来るのだろう。見えない電話の向こうの世界に驚いたり恐怖感を味わったりする。 姉たちが母の家で未払いになっている保険の督促状を見つけて僕にことづけた。かの有名なアヒルが宣伝している保険会社の督促状で、被保険者が父になっていた。父はだいぶ前に亡くなっているのにどうして督促状が来るのか分からなかったから会社に確認の電話をした。事の経緯を説明しようとして話し始めたのだが、話の途中で母の名前を出した。すると間をおかずに住所や父の名前を相手が口にした。その間数秒もなかったように僕には思えた。寧ろほとんど同時くらいな感覚だ。だからどんな操作でどんな情報が向こうの手元に映し出されているのか不気味に思った。こちらのことは全部お見通しなのかって感じだ。大きな企業は、あるいはそれよりもっと恐ろしいところは一体どのくらいの情報を持っているのだろう。僕ら庶民は、お釈迦様の手のひらの上で踊らされているのだろうかと不安になる。  ひょっとしたら彼らは、僕が歌手になろうとして結局はかすになったことや、有名大学を狙って結局は銀行の金庫を狙ったことや、唄を歌えば音痴だけでなく、旅すれば方向音痴、工作すれば機械音痴ってことや、格好良く歳をとろうと思っていたら小沢一郎みたいな顔で管みたいな腐った根性になったことなどお見通しではないかと不安になった。  でも、それにしても不思議だなあ。あれだけ情報を持っているのにどうして父が亡くなったことだけ知らないのだろう。もう7回忌とやらをしているのに。そう言えば担当者がそれはがん保険だといっていたな。父は胃ガンの手術をして一気に衰弱したのだが、保険って一体どうなっているのだろう。素人が考えてもメチャクチャ儲けれそう。黙っていれば死んでまで金を払ってもらえて、対象者が死んでも払わずに。アヒルがクワクワ泣いている場合じゃない。