不幸中の幸い

 予期せぬトラブルで、いや極度の機械音痴だから予期しなかっただけで、普通の人なら完全に想定内だろう。騒動中に珍しくアルコールの力を借りようとしてスーパーで酒を買った。買ったのが氷結なんとやらだから大したことはないが。余談だが、スーパーの食品売り場であんなに酒が簡単に買えるとは思わなかった。規制緩和とやらで何を狙っているのか知らないが、飲酒を奨励しているようなものだ。いやそもそも規制緩和の目的はそれだから、青少年に酒を、アル中に酒をと言う規制緩和だ。  1時間くらいスーパーの中を物色して(例によって魚や野菜がどこでとれた物か調べる)いざ帰ろうとしたら、車のエンジンがかからない。バッテーリーが上がったのだ。この予兆は昼からあった。ちゃんと機械は教えてくれていたのだ。ただ僕が車を離れるときの警報音がライトをつけたままだという案内だとは気がつかなかったのだ。だから昼過ぎからずっとライトをつけていたことになる。  夕方6時を回っていたので、車屋さんが未だ営業しているかどうか不安だった。何を思ったか保険証書を出してみると、こういった時の緊急の連絡先が書いてあった。初めての経験だが、保険は充分すぎるくらいかけているから、こうしたトラブルにも対応してくれるのではと考えてJAに連絡してみた。すると案の定、こうした事故以外のトラブルも補償対象になっていた。電話の向こうのJAの質問(確認)に答えると、早速手配をしてくれて、30分後にレッカー車がやってきた。車を持って行かれるのかと思ったら、その場で直してくれた。 現場ではてきぱきと事を進めてくれて、新しいバッテリーにも買えてくれた。普段お金をほとんど持たない僕だが、珍しくお金を持っていて、新しいバッテリーに変えてもらうことも出来た。作業中、色々話題を見つけては僕をもてなしてくれた。僕としては何度頭を下げても良いくらいお礼を言いたいのだが、向こうが何度も僕に礼を言ってくれた。確かに立場上僕が客だが、道義上はあくまで僕が礼を言う立場だろう。  実はもう一つ、この中心となる親切以外に序章部分で人の親切を受けている。車が動かないことが分かって、早速電話で連絡しようとした時に小銭がないことに気がついた。そこでマツキヨで歯ブラシを買って小銭を作ろうとした。ところがいざ買ってみると298円で10円玉が1枚もなかった。そこでレジをしている若い女性にそのことを告げた。すると彼女は気を利かして10円玉でお釣りをくれた。ハプニングで理性に少し混乱を来しているときにこうした親切は凄く有り難い。  僕の年齢になると、あらゆることに自信が無くなる。多くの親切や思いやりを受けなければならない世代にさしかかっている。そのことと取り引きするわけではないが、常日頃出来る限り、他者のために役に立つことを心がけている。そんな些細な努力に、何倍もの親切で返された、不幸中の幸いを地でいく1日だった。