連呼

 「あんな物いらないから、道の駅でも出来ればいいのにね」と言った女性は決して我が家の味方をしてくれているわけではないが、折角東京を離れて身も心も軽く暮らしているのに、都会の必需品みたいなものが追っかけてきたから不愉快だったのだろう。   工事が始まってから町民の話題に上り始めた。遂に牛窓町にもドラッグストアが出来る。日用品の品揃えがよい店がなかったので大いに便利になるから僕は大歓迎だが、本来なら一番来て欲しくない業種だろう。だが、僕は牛窓町の便利さが増せば、移住したい人が増えるから、僕の薬局が何らかの影響を受けるだろうことなど気にしない。元々僕の薬局は物販とはほど遠いから競合しようもないが。寧ろ、下手をしたら我が家は先方の結構な得意さんになるのではないか。  その女性は自分の力でこの町で生きていこうとしている。才能ある女性だから僕は期待しているのだが、色々と壁にぶつかることもあるらしい。都会でも活躍できる人だから、その才能の半分でもこの町で使ってもらえれば、この町ももっと楽しくて、経済的にも充実した生活を提供できる共同体になるだろう。  あんな物のためにヤマト薬局がいつ追い込まれ廃業するか、ひょっとしたら巷の話題になっているかもしれない。そう言えば何となく町民の表情が明るい。他人の不幸は蜜の味。 ただ残念ながら期待に添えそうにない。悩める人達を思いやる気持ちは店員教育で出来るようなもではない。天性のものか使命に燃えていなければ身に付かない。  えらそうなことは言わない方がいいか。そのうち僕がそのドラッグストアのユニフォームを着て、「今日はシャンプーが安いですよ」と人の顔も見ないで連呼しているかもしれないから。