独壇場

 何が切っ掛けでヤマト薬局に来てくれるようになったのか分からないが、もし来ていなかったらこの方はどのくらい将来も医療機関を彷徨うのだろうと思う。  沢山の不快症状で悩んでいる。上げればきりがない。10数年前からの不快症状だから解決しているのもあるのだろうが、現在進行形のものも両手の指では足りないくらいある。一つ一つの症状で病院に通い診断を受け薬を処方されるから、薬もおかずになるくらい飲んでいる。それでいて効果はほとんど感じていない。毎日出てくる症状がまるで日替わりランチみたいに異なるのだから、薬も的確に症状を追いかけることは出来ないだろう。ついつい安定剤や抗不安薬睡眠薬になる。とりあえず寝させておけば安心なのだろう。多くの方が同じような内容の薬を飲んでいる。  僕はそんな方の根本原因は「力み」だと思っている。毎日数人はそんな人を応対するから、それも30年くらい漢方薬をやってきたら、なんとなくそのあたりに収束されて来たような気がする。病気などとはかけ離れているはずなのに、病気と同じように辛くて、病気よりも治りにくい。昔なら一生に一度も会えないような美男美女、経営者、タレント、芸術家、スポーツマン、政治家、職人、働き者、頑張り屋さん、善意の人、宗教家などを色々な媒体を通して毎日のように目にするから、いわゆるごく普通の人たちが、彼らと同じようにあらねばと思ったりしてしまう。運動音痴は運動音痴だし、音の音痴は所詮音痴だし、人が苦手な人は所詮苦手だし、シャイは所詮シャイだし・・・・それを認めて受け入れて、そこそこ、ほどほどなどの言葉を覚えれば肩の力は抜けるのに、なぜか個性を否定的に捉えてしまう。まるでボクサーのように体を縮こめて生きている姿が見える。体も心も縮こまって見えない敵、本当は内なる敵なのだが、と闘い悲鳴を上げている。世間ではこれを心身症というのだろう。  たった一つの煎じ薬でかたが着く人もいるし、複数の漢方薬を飲んでもらう人もいる。ただ薬草で両手では治まらないような不快症状が次から次へと消えていくのは、本人は勿論僕も嬉しい。表情が変わっていくのがみんなに分かる。体調や心調が良くなるってこんなに幸せなものなのかといつも感激を持って見ている。  僕は心が作る体の不調は漢方薬の独壇場だと思っている。